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アプリケーションノート4038

超音波レシーバVGAの出力換算ノイズと利得の最適化:ドップラー法のダイナミックレンジと感度を改善

要約:フェーズドアレイ超音波レシーバを左右するほど重要な 部品が、時間ゲイン制御(TGC)アンプと呼ばれることも ある可変利得アンプ(VGA)です。このアーティクルでは、 VGAの出力換算ノイズと利得が超音波パルスドップラー法 のダイナミックレンジと感度にどのような影響を与えて いるか、また、8回路超音波VGAのMAX2037が標準的な レシーバラインアップにおいて高い総合性能を発揮する ためにこれらのパラメータをどのように最適化している かについて紹介します。

このアーティクルはマキシムの「エンジニアリングジャーナルvol. 60」 (PDF、912kB)にも掲載されています。

フェーズドアレイレシーバの概要

これらのVGAの仕様がドップラー性能にどのような影響を与えるかを検討する前に、まず、標準的なフェーズドアレイ超音波受信チャネルの基本構成と動作を確認しておきます。フェーズドアレイ超音波レシーバに関する高レベルの概要は、付録A「フェーズドアレイ超音波システムの基本」をご覧ください。レシーバラインアップは、通常、LNA、VGA、アンチエイリアスフィルタ、およびADCで構成されます(図1)。LNAは、1つのトランスデューサエレメントから得られる1MHzから15MHzまでの出力をシングルエンド入力信号として増幅を行います。利得は約19dB、アクティブ入力インピーダンスは50Ωから1kΩで、トランスデューサエレメントとマッチングし、超低雑音指数が得られるように最適化されています。

Figure 1. A typical phased-array ultrasound-receiver lineup consists of an LGA, a VGA, an anti-alias filter, and an ADC.
図1. LNA、VGA、アンチエイリアスフィルタ、およびADCで構成された標準的なフェーズドアレイ超音波レシーバラインアップ

送信バーストの直後、受信サイクルの最初におけるLNA入力信号は、0.5VP-Pにも達することがあります。受信中に信号強度は次第に低下し、最終的にはレシーバのノイズフロア以下となります。人体における音響エネルギーの減衰率が約0.7dB/cm-MHz (往復で1.4dB/cm-MHz)であること、また、人体における音の伝播速度が1540m/s (往復で13µs)であることを用いると、この減衰率を計算することができます。受信サイクル全域にわたってこの信号を処理するためには、約110dBのダイナミックレンジが必要となりますが、これは、現実的なADCコンバータのレンジではとてもカバーすることができません。そのため、レシーバでは、利用可能なADCの入力ダイナミックレンジに信号をマッピングするため、VGAによって受信サイクル中に利得を動的に増加させていくようになっています(これが「時間ゲイン制御」と呼ばれる理由)。70dBのダイナミックレンジを持つ12ビットADCを使用すると、受信信号をマッピングするためには、約40dBの利得レンジを持つVGAが必要です。図1の受信チェーンには3ポールのアンチエイリアスフィルタが挿入されていますが、これは、正常なイメージング周波数の上限である15MHzを超える外来信号や高周波数ノイズをADCにマッピングしないためのものです。ADCとしては、通常、40Msps動作から60Msps動作の12ビットADCを使用します。

VGAの出力換算ノイズと利得、およびそのPWドップラーに対する影響

標準的な2D、グレースケールの超音波イメージングでは、各フェーズドアレイチャネルにおいて約40dBのダイナミックレンジを必要とします。これに対し、周辺組織の信号と比較して血液から得られる信号は強度が極端に低いため、スペクトルPWドップラー法やカラーフローイメージングなどのパルス型ドップラーイメージングでは、70dBものダイナミックレンジが必要になります。そのため、高ダイナミックレンジの12ビットADCを用いてレシーバのドップラー性能を引きあげます。

超音波レシーバラインアップにおいて、これらのADCに対応するVGAを設計することは、とても困難な作業です。具体的には、高TGCレベルでもレシーバの雑音指数を低く抑えることができるだけの利得を確保しつつ、出力換算ノイズを低く抑えて十分なレシーバダイナミックレンジを確保することが困難です。低い出力換算ノイズと大きな最大利得は、VGAの実装では、基本的に互いに背反する特性だからです。このアプリケーション用にVGAを設計する場合には、このふたつのVGA特性を適切なバランスとなるように最適化し、レシーバの総合性能を高める必要があります。

これらのVGA特性がどのようにレシーバ性能に影響するかを理解するため、2つのケースを検討してみましょう。ひとつは、TGCが中ゲインから低ゲインで、受信信号レベルが比較的高い場合です。このような条件のもとでは、レシーバのダイナミックレンジを最適化することが重要です。もうひとつのケースは、TGCが最大利得となっており、受信信号レベルが小さい場合です。このような条件のもとでは、レシーバ雑音指数を最適化して十分な感度を確保することが必須となります。

レシーバのダイナミックレンジに対するVGA出力換算ノイズの影響(TGC利得が中~低の場合)

TGCレベルが中~低の範囲では、VGA出力ノイズの大半はVGAの出力換算ノイズによるものです。ADCのダイナミックレンジを狭めないためには、このノイズがADCのノイズフロアよりも大幅に小さい必要があります。図1の超音波レシーバラインアップを例に考えてみましょう。MAX2037のVGAの出力換算ノイズは22nV/程度です。そのVGA出力をディジタル化する12ビット、50Msps ADCのMAX1437は、最大入力電圧が1.4VP-P、SN比が70dB、ノイズフロアは31.7nV/です。この例でVGAとADCとの間に入っているパッシブアンチエイリアスフィルタの通過帯域における減衰率が0dBであるならば、VGAの出力換算ノイズによって、ADCのSN比70dBは実質的に1.7dB引き下げられ、68.3dBとなります。しかし現実には、このようなアプリケーションで使用されるアンチエイリアスフィルタは、通過帯域においても若干の減衰が発生します。

動作を安定させるため、VGAは基本的に、このフィルタを駆動する実数インピーダンスを出力に持つ必要があります。このインピーダンスは、フィルタ側のキャパシタ値が非現実的なほど小さくならないよう、十分に大きな値でなければなりません。このような制約条件があるため、現実のアンチエイリアスフィルタでは、通過帯域においても3dBから6dBの減衰が発生します。この通過帯域における減衰により、ADC入力に加えられる出力換算ノイズが小さくなり、ダイナミックレンジが向上します。通過帯域の減衰率が6dBの場合、MAX2037の出力換算ノイズによるADCのSN比の劣化は、わずか0.49dBにとどまります。

VGAがMAX2037を大きく超える出力換算ノイズを持つと、いろいろと問題が発生します。出力換算ノイズがMAX2037の約2倍となる40nV/程度のVGAであっても、アンチエイリアスフィルタの減衰率が6dBのとき、ADCのSN比は1.5dBも低下します。これは、イメージングが困難なパルスドップラーアプリケーションなどにおいては、大幅な低下だと言わざるを得ません。なお、アンチエイリアスフィルタの減衰はレシーバの利得を引き下げるため、レシーバの雑音指数に大きな悪影響を与えることになります。この点については、次のセクションで詳細に検討します。

MAX2037は、出力換算ノイズが競合デバイスの半分程度となっています。また、12ビットADCと現実的なパッシブアンチエイリアスフィルタを組み合わせたとき、ダイナミックレンジを最適化し、かつ、レシーバ雑音指数の劣化を防止できるように、非常に高い最大利得を持っています。図2に、MAX2037の出力換算ノイズを利得の関数として示します。

Figure 2. The MAX2037 features half the noise of competitive devices, while providing much higher gain.
図2. MAX2037は出力換算ノイズが競合デバイスの半分程度で、利得は大幅に高くなっています。

レシーバの雑音指数に対するVGA出力換算ノイズの影響(高TGC利得の場合)

高TGC、つまり、レシーバ感度が小信号に最適化されている場合、VGA出力換算ノイズとADCノイズフロアの合計が、ADC入力に加えられる増幅後のトランスデューサノイズフロアよりも大幅に小さい必要があります。

図3は超音波レシーバの簡略化したブロックダイアグラムで、これを見ると、ADC前のレシーバ利得が雑音指数に与える影響がわかります。このレシーバラインアップは、19dBの利得を持つクワッドLNAのMAX2034と29.5dBの最大利得を持つVGAのMAX2037、8回路、12ビットADCのMAX1437という構成を仮定しています。アンチエイリアスフィルタは通過帯域において6dBの減衰を持つとも仮定しています。トランスデューサのインピーダンスを200Ωとすると、サーマルノイズフロアはVN = sqrt(4 × K × T × R × ΔF)、つまり、1.8nV/となります。LNAのZINを200Ωとすると、この値の半分(0.9nV/)が、LNA入力におけるサーマルノイズフロアとなります。LNA、VGA、およびADCのノイズ特性から、レシーバラインアップ全体の雑音指数は約2.3dBとなります。MAX1437のノイズフロアは31.7nV/。TGCレベルが最大となったとき、ADC上流の利得(アンチエイリアスフィルタを含む)は42.5dBとなります。この例におけるレシーバ入力に対するADCノイズは0.237nV/に過ぎず、そのため、レシーバ全体の雑音指数2.3dBのうち、ADCの寄与分は0.18dBのみとなります。

Figure 3. Gain before the ADC affects noise-figure performance in this simplified ultrasound-receiver block diagram.
図3. シンプルな超音波レシーバのブロックダイアグラム−ADC上流の利得によって雑音指数性能が影響を受けます。

では、VGAの最大利得がもっと小さい場合やADCのノイズフロアがもっと高い場合はどうなるでしょうか。図3に示す標準的な超音波レシーバにおいて、小信号雑音指数にVGA ゲインが与える影響を示したのが図4です。ADCノイズフロアについても、2つの値に対してプロットしてあります。なお、MAX2034の低ノイズ超音波LNAの利得は19dB、アンチエイリアスフィルタの減衰は6dBと仮定しました。図4の上側のプロットはMAX1437を使用した場合で、最大入力電圧は1.4VP-P、SN比は70dB、ノイズフロアは約31.7nV/です。下側のプロットは、入力電圧が2VP-P、SN比が70dB、その結果得られるノイズフロアが約45.2nV/というADCを用いた場合です。2つのADCにおいてレシーバ雑音指数がどのような影響を与えるのかは、このグラフを見れば明らかです。また、MAX2037が持つ29.5dBという高い最大利得がレシーバの雑音指数を向上させることも明らかです。VGAの最大利得が小さいと、TGCレベルが最大となったときレシーバ全体の雑音指数が大きくなり、小信号時のドップラー感度が低下します。MAX1437のようにノイズフロアが低いADCとMAX2037のように最大利得が大きいVGAを用いると、雑音指数を大幅に改善することができます。

Figure 4. Receiver noise figure vs. VGA gain is shown for the Figure 3 ultrasound receiver.
図4. 図3に示す超音波レシーバにおけるレシーバ雑音指数とVGA利得との関係

まとめ

超音波レシーバの感度を最適化するためには、VGAの出力換算ノイズと最大利得、アンチエイリアスフィルタの減衰率、およびADCのノイズがレシーバのダイナミックレンジと雑音指数に与える影響を正しく把握し、対処することが重要です。VGAのMAX2037であれば出力換算ノイズと最大利得を最適化し、適切にバランスさせて、MAX1437などの12ビットADCに適切な入力とし、最高の性能を持つ超音波レシーバとすることができます。

付録A—フェーズドアレイ超音波システムの基本

フェーズドアレイ超音波システムに関する高レベルのブロックダイアグラム

図5は、標準的な医療用フェーズドアレイ超音波イメージングシステムのブロックダイアグラムです。このようにフェーズドアレイアプローチとしたシステムでは、64~256の受信チャネルと同数の送信チャネルを必要とします。図5のブロックダイアグラムでは、簡略化して、1つの送受信チャネルだけを示しています。

Figure 5. A single transmit-and-receive channel is shown for a typical phased-array medical ultrasound imaging system.
図5. 標準的な医療用フェーズドアレイ超音波イメージングシステムの1つの送受信チャネル

超音波トランスミッタの基本

超音波画像を得るため、フェーズドアレイ超音波システムでは、適切な遅延をかけたN個(N = 送信チャネル数)の高電圧送信パルスを生成する必要があります。このパルスによってトランスデューサアレイの各エレメントを励起し、焦点を絞った音響送信を得ます(図6)。

Figure 6. A focused acoustic transmission is produced by properly delayed, high-voltage transmit pulses.
図6. 適切な遅延をかけた高電圧送信パルスにより、焦点を絞った音響送信を行います。

超音波レシーバの基本

体内にある音響インピーダンスの不連続面で反射された音響エネルギーを、トランスデューサで受信し、システムの各受信チャネルへ回します。受信チャネルでは、図7に示すように、各トランスデューサの出力信号を増幅してから、ディジタル化します。計算された遅延特性を用いてディジタル化した信号に遅延をかけ、超音波システムのディジタルビームフォーマで合計し、ビーム形成フォーカス信号を生成します。こうして得られるディジタル信号を用い、2DおよびPW/カラーフローのドップラー情報を得ます。

Figure 7. Signals from each transducer element are amplified and digitized by receive channels in the ultrasound-receiver system.
図7. 各トランスデューサエレメントの出力は、超音波レシーバの受信チャネルで増幅し、ディジタル化します。


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