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リファレンスデザイン4322

Li+バッテリチャージャのシンプルな試験方法

筆者:Alfredo H. Saab, Applications Engineering Manager
Shasta Thomas, Applications Engineer

要約:Li+バッテリの充電には1時間以上の時間がかかるため、Li+バッテリチャージャを本来の負荷(つまりバッテリ)を用いて試験するには時間がかかりすぎて不便です。このアプリケーションノートでは、Li+バッテリの挙動をシミュレーションできるシンプルな回路により、バッテリチャージャの試験時間を短縮する方法を紹介します。さらに便利な方法を提供することによって、実際のバッテリを使わずにLi+チャージャの試験を効率的に行うことができます。

このアーティクルはマキシムの「エンジニアリングジャーナルvol. 64」(PDF, 1.99MB)にも掲載されています。

はじめに

リチウムイオン(Li+)バッテリは、他種類のバッテリよりも化学的にデリケートで、荒い使い方をすると痛みやすいという特性があります。そのためLi+バッテリ用チャージャは回路が複雑で、電流と電圧を高い精度で設定できるようになっています。この精度が低いと、バッテリが不完全充電となる、バッテリ寿命が縮む、バッテリ性能が低下するなどの問題が発生します。

Li+チャージャではこのような要件を満足しなければならないことから、設計したチャージャについてその運用動作の全域について段階的に細かく試験をする必要があります。しかし、Li+チャージャに本来の負荷(つまりLi+バッテリ)を接続した状態で試験を行うのは時間がかかりすぎ、ラボ環境や製造環境においては非現実的です。このアプリケーションノートでは、このようなプロセスをシンプルにする方法として、バッテリを接続せずにLi+バッテリチャージャを実践的かつ短時間に試験できるバッテリエミュレーション回路を紹介します。

CC-CV充電

Li+バッテリの充電プロセスでは、まず第1段階において中程度の精度を持つ定電流(CC)充電を行い、次に第2段階の高精度定電圧(CV)充電を行う必要があります。

図1は、Li+バッテリチャージャに用いられる最新のCC-CV集積回路(MAX1737)のV-I特性です。民生品のLi+バッテリチャージャには、このようなICが必ず使われています。図1では、CC領域(バッテリ電圧が2.6V~4.2Vの範囲)とCV領域(4.2V)が明確に図示されています。

Figure 1. This V-I curve from the MAX1737 is typical for Li+ cell chargers.
図1. MAX1737のV-I曲線で、Li+セルチャージャでは一般にこのような特性が使用されます。

バッテリ電圧が2.6V以下の領域では、また別の充電方法を使用します。2.6V以下まで電圧が下がったバッテリに充電する場合、チャージャは、バッテリが2.6Vになるまで充電電流を小さく抑えて充電します(「コンディショニング電流」と呼ばれます)。これは過放電したLi+バッテリの特性に合わせた安全対策です。VBATT < 2.6Vの状態で急速充電電流を流すと、バッテリが短絡状態となり、元に戻らなくなってしまいます。

CCからCVへは、±40mVの範囲で遷移させる必要があります。遷移ポイントの許容誤差がこれほど小さい理由は、CVへの遷移時の電圧が低すぎるとバッテリが完全充電されず、逆に高すぎるとバッテリの有効寿命が短くなるからです。

充電プロセスの最後では、バッテリが完全充電されたことを検知し、チャージャを切り離すかシャットダウンする必要があります。このためには、CV段階の充電電流を検出し、それが、いわゆる急速充電電流あるいは最大充電電流と言われる値の一定割合(10%以下とすることが多い)まで低下したら充電プロセスの終了処理を行います。

Li+チャージャの試験パラメータ

Li+バッテリチャージャは、通常2つの基本ブロックで構成されます。1つはディジタルブロックで、制御用ステートマシンとして使用します。もう1つはアナログブロックで、高精度(1%以内)リファレンスを用いた定電流/定電圧の電源です。ICだけでなく、製品としてのLi+チャージャ全体を試験するためには、電流値や電圧値をいくつかチェックするだけでは不十分で、手間も時間もかかります。

まず、CC段階、CCからCVへの遷移、そして充電終了処理まで、チャージャの動作範囲全体を順番に試験する必要があります。試験条件を現実的にするという面からは、本来の負荷であるLi+バッテリを接続した状態で試験を行うのがベストです。しかし、そのような試験は時間がかかりすぎます。試験時間は大容量バッテリと低速チャージャ、低容量バッテリと急速チャージャ、あるいはその中間など、組合せによって異なりますが、いずれにせよ、Li+バッテリの充電プロセスには1時間以上もの時間がかかることがほとんどです。

また、充電プロセスの短縮も、バッテリの最大充電速度(いわゆる急速充電電流値)による限界があり、これを超えて短縮しようとするとバッテリを痛めてしまいます。民生品用の一般的なバッテリでは、急速充電電流値が1C (バッテリを1時間で完全放電させる電流)を超えることはほとんどありません。つまり、チャージャの動作サイクル全体について試験をしようとすれば、ほとんどの場合、2時間以上の時間がかかってしまいます。

試験を繰り返したいと考えれば、バッテリを完全放電させる必要がありますが、このプロセスにも充電に近い時間がかかります。あるいは、一定の方法で放電させたバッテリを大量に用意する必要があります。

負荷試験のやり方としては、本物のバッテリをつながず、負荷を現実的にシミュレーションするものをつないで行う方法が考えられます。このようなシミュレーションが実現できれば、回路のDC応答や動的安定性の検証が行えるはずです。ただし、バッテリのシミュレーションは難しいという問題があります。電源の試験で用いられる標準的な負荷では対応できません。電源試験で用いるベンチ負荷とは異なり、バッテリは、電気抵抗と等価でもなければ定電流シンクとして機能するわけでもありません。しかも、チャージャの動作範囲全体を順番に試験する必要もあります。このようなすべての条件を満足するLi+チャージャ用テスト回路を以下に紹介します。

バッテリをモデルとした負荷の選択

最初に、モデル化の2種類のアプローチについて検討します。いずれも最終的には使わないものですが、検討しておくことには意味があります。

バッテリ負荷のモデル化としては、まず、電流のソース(放電)とシンク(充電)、両方に対応した電圧ソースを用意し、バッテリの内部抵抗に相当する抵抗と直列にする方法があります。Li+バッテリの場合は終止電圧と充電電流を厳密に制御する必要があるため、Li+チャージャは基本的に制御機能を持つ電力変換器となります。

また、制御機能を持つ電力変換器(チャージャ)の安定性は接続した負荷(バッテリ)の動特性によって変化するため、モデル対象の特性に近い負荷を選ぶ必要があります。この選択を間違うと、チャージャのV-I限界値の確認しかできない試験となってしまいます。

試験を行うのが1回のみであり、かつ、ごくシンプルなバッテリモデルで試験要件を満足できるのであれば、バッテリの内部抵抗をシミュレーションする抵抗とシャント電圧レギュレータの直列接続というモデルでも十分な可能性があります。このアプローチでは、チャージャ以外に電源を用意する必要がないこともメリットです。

もっと厳密な試験を行うためには、モデルも精巧にする必要があります。この場合、充電によってバッテリに供給された電気量の関数となる電圧ソースを用います。

バッテリの端子間電圧は、定電流充電中に少しずつ上昇します。放電やバッテリ内部における化学変化などで、バッテリの陰極周辺に蓄積した減極イオンが次第に減少するからです。この結果、チャージャの動作点は、バッテリとの接続時間によっても、それまでのバッテリの使用状況によっても変化することになります。このように複雑なモデルをシミュレーションできる負荷は、一般的なラボで使用されている汎用機器では表現することが困難です。

充電回路を何度も試験しなければならない場合や、回路性能を詳しく検討しなければならない場合、充電中のバッテリを厳密にシミュレーションできる回路があれば便利です。チャージャが持つDC動作点のすべてを連続的にスイープする機能は持つべきでしょう。また、問題点やグリッチ、発振などのチェックができるように、結果の表示機能も持つべきでしょう。シミュレータからバッテリ電圧と信号を出力できれば、それをスコープに表示させることもできます。

このようなシミュレーションが実現できれば、試験時間を(時間単位ではなく10秒単位程度まで)短縮でき、必要に応じて何度でも繰り返し行えるようになり、実際のバッテリを使って試験するよりもずっと便利になります。ただし、加速試験では、電力負荷によるチャージャ回路の発熱についての確認が行えません。チャージャの電力回路やレギュレーション回路の熱時定数については、長時間の試験を行って確認する必要があります。

バッテリをモデルとした負荷の構築

シングルセルのLi+バッテリをシミュレーションする回路を図2に示します。終止電圧も、チャージャのCC段階で供給する急速充電電流も、チャージャの設定で変更することができます。完全放電状態にシミュレータを初期化すると、バッテリ電圧が3V相当の状態になるようにしてありますが、これを4.3Vとして過充電状態の試験を行うこともできます。初期化時の3Vという電圧は、Li+バッテリの放電時、バッテリ電圧低下によるシャットダウン回路が動作する一般的な値です。なお、この回路は、4.2Vで充電を終了するCC-CVタイプの標準的なLi+バッテリチャージャに合わせてあります。充電終止電圧や放電電圧を変更したい場合には、簡単に調節することができます。

Figure 2. By simulating the behavior of a single Li+ cell under charge, this circuit lets you test Li+ battery chargers without using real batteries.
図2. この回路は1つのLi+セルの充電挙動をシミュレーションするもので、実際のバッテリを使用せずにLi+バッテリチャージャの試験を行うことができます。

パワートランジスタの放熱による制限により、試験対象のチャージャから受け入れられる充電電流は最大で3Aです。バッテリ電圧の上昇は、完全放電状態にシミュレータを初期化したあとに流入した充電電流の累積値の関数となります。

ここに示す値は、充電電流が1Aのとき、6秒から7秒で充電終止電圧である4.2Vに達する積分時定数となっています。電流範囲、内部抵抗、充電終止電圧、完全放電電圧は、いずれも、一般的なLi+セル、この場合Sony® US18650G3の仕様に基づいたシミュレーションとなっています。ただし、バッテリ電圧のシミュレーションにおいて、環境温度の影響までは考慮していません。

シャント電圧レギュレータは、シャントレギュレータのMAX8515とバイポーラパワートランジスタのペアで構成しています(内蔵の電圧リファレンスの精度からMAX8515を選定)。TIP35トランジスタには大電流が流れるため、約25Wの放熱能力を持つヒートシンクに取り付けます。

デュアルオペアンプのMAX4163は、片方のオペアンプを充電電流の積分に使用し、もう片方を電流測定信号の増幅とレベルシフトに使用します。このオペアンプはPSRRが高い上、レイルトゥレイルの入力範囲と出力範囲が高いため、これらの機能をごくシンプルな回路で実現することができます。0.100Ωの電流検出抵抗がバッテリシミュレータのプラス側に直列に入っていますが、これはバッテリの内部抵抗としても機能します。

試験データを自動的に収集したい場合に便利なように、外部信号によって完全放電状態にリセットすることもできます。マニュアル操作する場合には、プッシュボタンでリセットします。

シミュレータには動作モードが2つあり、単極単投スイッチで選択できるようになっています。スイッチをA側にすると、前述のように積算充電シミュレータとなります。B側にすると出力電圧とシンク電流が設定値となり、DC動作点を固定してチャージャのスポット試験を行うことができます。このときの「設定」電圧は、50kΩの可変抵抗により、2.75V~5.75Vの範囲で調整することができます。ただし、この設定電圧値は、内部シンクソースのものです。シミュレータ端子間に出る電圧(VBATT)は、この設定電圧に、シミュレータの内部抵抗(0.100Ω抵抗)を流れるシンク電流による電圧降下を加えたものとなります。シミュレータの動作電源は、バッテリチャージャの出力から供給されます。

シミュレータの性能

図3は、Li+バッテリを4.2Vまで充電する状況をシミュレーションしたときの一般的なV-I波形です。2種類の試験結果が描かれています。1つは初期急速充電電流を1Aとした試験(ラインBとラインD)、もう1つは急速充電電流を2Aとした試験(ラインAとラインC)です。いずれの場合も、終止電圧の4.2Vに達するまでCC段階となっています。その後、バッテリ電圧のシミュレーション値は一定となり、電流は指数関数的に減少します。充電電流を2Aにすると短い時間で充電が終了していますが、実際のバッテリで充電電流を2倍にしたときにもこのような挙動となります。ただし、充電電流を2倍にしても充電時間が半分になるわけではなく、実際のバッテリと同じようにCVモードに達するまでの時間が半分になっていることに注意してください。

Figure 3. Taken from the Figure 2 cell-simulator circuit, these fast-charge waveforms show the behavior of a battery charger delivering 1A during the CC phase (traces B and D) and then 2A (traces A and C).
図3. 図2に示すセルシミュレータ回路の急速充電波形で、CC段階に1Aの充電電流を供給した場合(ラインBとラインD)と2Aの充電電流を供給した場合(ラインAとラインC)のグラフです。

図4は、電圧を3Vと4.1Vに設定して電流をシンクさせたときのV-I曲線です。いずれの場合も、動的電気抵抗(グラフの傾き)は、0.100Ω抵抗によってシミュレーションされた内部抵抗となっています。

Figure 4. The slope of these plots, which represent the Figure 2 circuit sinking current at 4.1V (top trace) and 3V (bottom trace), shows the 0.1Ω internal resistance in both cases.
図4. このグラフの傾きは、4.1V (上側)と3V (下側)のとき図2の回路がシンクする電流値で、いずれも、内部抵抗が0.1Ωに相当します。

まとめ

Li+バッテリの充電には1時間以上の時間がかかるため、Li+バッテリチャージャを本来の負荷を用いて試験するには時間がかかりすぎて現実的でないことがよくあります。このアプリケーションノートでは、Li+バッテリの挙動をシミュレーションできるシンプルな回路により、バッテリチャージャの紹介をしました。この回路を使用すれば、実際のバッテリを使わずにLi+チャージャの試験を効率的に行うことができます。



リファレンス
  • Linden, D., and Reddy, T.B., Handbook of Batteries, 3rd ed. (New York: McGraw-Hill, 2002).
  • Cromptom, T.R., Battery Reference Book, 3rd ed. (Boston: Newnes, 2000).
  • Van Schalkwijk, W.A., and Scrosati, B., Advances in Lithium Ion Batteries (New York: Kluwer Academic, 2002).
  • MAX8515MAX4163、およびMAX1737のデータシート
「Power Electronics Technology」の2008年5月号にも、同様のアーティクルが掲載されています。



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