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アプリケーションノート 749

選択性を利用したレシーバのインターセプトポイントの向上

要約:レシーバの相互変調スプリアス応答減衰とは、2つの干渉するCWトーンが存在するときに、割り当てられたチャネル周波数上で、レシーバが変調入力RF信号周波数を受信する能力の尺度のことです。これらのトーンは、この2つの所望しない信号のn次のミキシングがレシーバの非線形要素において発生し、所望する信号の帯域内に第3の信号を生成するように入力信号周波数から切り離されて割り当てられております。スプリアス応答干渉に対するレシーバの保護は、割り当てられた周波数での入力信号と、それが応答する他の周波数における所望しない信号を区別する能力の尺度を表します。

ある特定の無線回路やシステムでは、レシーバの2次及び3次のインターセプトポイントが、直線性に対する最も重要な2つの仕様となります。これらのインターセプトポイントによってレシーバの相互変調(IM)性能を予測することができます。この相互変調(IM)性能とは、隣接または近傍のユーザの干渉に対する無線の妨害感受性を表すものです。この記事では、2次と3次のIMの両ケースについて、これまで用いられてきたレシーバのインターセプトポイント(IP)のカスケード方程式を改良した式について紹介します。2次インターセプトポイント(IP2)と3次インターセプトポイント(IP3)のカスケード方程式をそれぞれ数学的に導き出す際に、レシーバの各段間に選択性(S)を追加し、その効果を採り入れることにより、2次と3次の入力インターセプトポイントであるIIP2とIIP3を全体的に向上しています。

注:この記事では、大文字で記載された変数はすべてdBまたはdBm単位、小文字で記載された変数はすべて線形単位を示します。

移動端末用に推奨される最小性能規格に関連するワイヤレス仕様では、レシーバの相互変調(IM)性能は、「レシーバの相互変調によるスプリアス応答の減衰量」と「スプリアス応答の干渉に対するレシーバの保護」という2つの主要な技術的事項によって規定されています。「レシーバの相互変調によるスプリアス応答の減衰量」は、2つの干渉CWトーンが存在する状況において、割り当てチャネル周波数で変調された入力RF信号の周波数を受信するレシーバの能力の尺度になります。これらのトーンは入力信号の割り当て周波数から分離されているため、2つの不要信号のN次ミキシングがレシーバの非直線成分として発生し、所望の信号帯域の中に3次信号を生成する可能性があります。「スプリアス応答の干渉に対するレシーバの保護」は、割り当て周波数での入力信号と、レシーバが感受する他のあらゆる周波数での不要信号をレシーバが区別する能力の尺度になります。

3次IM (相互変調)の生成出力による干渉

レシーバのフロントエンドでの3次ミキシングの結果、周波数f1とf2の2つのオフチャネルCWトーンにより、(2f1 − f2)に等しい周波数(これはオンチャネルの信号通過域の範囲に入る場合がある)の3次相互変調の生成出力が生じます(図1a)。この帯域内3次相互変調(IM3)の生成出力は、レシーバの復調器におけるキャリア対干渉比(C/I)を低減します。この入力IM3生成出力のレベル(IIM3、単位:dBm)は、直線の傾きが3:1であるということを用いて(図1b)、レシーバの全体入力IP3 (IIP3、単位:dBm)と2つのオフチャネルCWトーンの各入力電力レベル(PI、単位:dBm)を含んだ式で求めることができます[1]。

図1:2つのオフチャネルCWトーンによって生じる、帯域内干渉源となるIM3生成出力(図a)と3次インターセプトポイント(IP)の定義(図b)

図2は、従来のデュアルコンバージョンのスーパーヘテロダインレシーバのアーキテクチャを表しています。このタイプのレシーバのアーキテクチャでは、オフチャネルCW干渉源によるIM3生成出力は、低ノイズアンプ(LNA)、第1ミキサ、IFアンプ、第2ミキサ、及びIFリミティングアンプで生成されます。すべてのIM3生成出力が復調器の入力で加算され、レシーバ入力における等価の帯域内IM3生成出力(IIM3)になります。このIM3生成出力は、帯域内干渉源として作用しますが、IFアンプ、第2ミキサ、及びIFリミティングアンプで生成される3次IMを最小限に抑えることによって低減することができます。これを実現するため、第1ミキサの後にあるIFフィルタ(IFフィルタ#1)に、これらのオフチャネル干渉源に対してある一定量のIF選択性(S)を導入します。フィルタの選択性(S)とは、オンチャネルのフィルタ通過域の挿入損失(IL)を基準とした、オフチャネル干渉源の周波数でのIFフィルタ#1の除去帯域における減衰量です。したがって、オフチャネルCWトーンの周波数でのIFフィルタ阻止域における総除去量(R) (単位:dB)は、R = -(IL + S)と定義することができます。IFフィルタの選択性(S)は、後段にあるレシーバブロックの3次歪みとダイナミックレンジの要求を低減します。このため、等価の帯域内IIM3生成出力を最小限に抑えるようレシーバ全体のIIP3を最適化することができ、必要なレシーバのベースバンド(C/I)比を満たすことができます。


図2:従来のスーパーヘテロダインのデュアルコンバージョンレシーバ

3次入力インターセプトポイント(IIP3)の改良カスケード方程式

図3では、図2に示したデュアルコンバージョンレシーバのアーキテクチャを3つのブロック、すなわちRFブロック、IFフィルタ#1、及びIFブロックに分割しています。RFブロック(ブロック#1)は、第1IFフィルタの前段にあるレシーバのRF段から構成されます。IFブロック(ブロック#2)は、第1IFフィルタの後段にあるレシーバのIF段から構成されます。ブロック#1には、RFでの利得G1と、等価の3次入力インターセプトポイントIIP31が含まれています。ブロック#2には、IFでの利得G2と、等価の3次入力インターセプトポイントIIP32が含まれています。レシーバ入力に見られる2つのオフチャネルCW干渉源の各電力レベルはP1と仮定されています。P1は、2つのオフチャネルCWトーンのブロック#1への入力レベルです。P2は、IFに変換された2つのオフチャネルCWトーンのブロック#2への入力レベルです。IIM3は、2つのオフチャネルCWトーンによるIM3の総歪み電力で、レシーバへの入力になります。IIM31は、ブロック#1に生成されるIM3の総歪み電力で、ブロック#1への入力になります。IIM32は、ブロック#2に生成されるIM3の総歪み電力で、ブロック#2への入力になります。


図3:IP3改良カスケード方程式を導出するためのブロック図(この方程式は、2つのオフチャネルCWトーンの周波数において、レシーバ段への選択性(S)を追加することにより、その効果を採り入れています。電力記号の単位はdBm、利得はdB単位)

以下に示す導出方法では、ブロック#1の入力IIM3の歪み電圧と、前段の電圧利得で除算したブロック#2の入力IM3の歪み電圧とを、最悪条件として厳密に同相で加算することにより、IM3の総歪み電圧(これがレシーバへの入力となる)を求めています。システム特性インピーダンスを1Ωとすると、次のように表すことができます。
ここでは、IM3電力を電圧に変換するために平方根をとっています。項iim3、iim31、及びiim32の単位は、線形電力単位(ワットまたはミリワット)です。また、G1(dB) = 10.log10(g1)及びIL(dB) = 10.log10(il)です。

式(1)は、次式に置き換えることができます。
式(3)は、レシーバ全体の入力IP3を定義しています。式(3)をdBmではなく線形電力単位(ミリワット:mW)に書き換えると次のようになります。
式(3)の場合と同様に、ブロック#1とブロック#2のそれぞれについて、IIP31とIIP32を次のように定義することができます。

P1(dBm) = PI、及びP2(dBm) = PI + (G1 - IL - S)であるため、式(5)と式(6)によって次式が得られます。

式(3)の場合と同様に、式(7)と式(8)をdBmではなく線形電力単位に書き換えると、それぞれ式(9)と式(10)が得られます。

ここで、S(dB) = 10.log10(s)、及び(dB) = 10.log10(il)です。S(dB)とIL(dB)は正の数であることに留意してください。

式(2)に戻って、これを(pI)1/2で割ります。
式(4)、(9)、及び(10)を用いて、式(11)の各項に、等価の項を代入します。項pIを取り除いて整理すると、次のIIP3の改良カスケード方程式を得ることができます。
式(12)から分かるように、高選択性IFフィルタ(s>>1)を選ぶことにより、レシーバ全体の入力IP3 (IIP1)に対するIFブロックの入力IP3 (IIP32)の影響を最小限に抑えることができるので、入力全体は、ほぼRFブロックのIIP3 (IIP31)によって決定されることになります。留意すべきことですが、カスケードシステム解析では、IFブロックの入力IP3 (IIP32)は、等価の入力IP3で置き換える必要があります。これによってIFブロックの前に選択性を導入する効果を反映できます。この等価IIP32は、次式で表すことができます。
M個のカスケード段を備えたレシーバチェーンの全体入力IP3を予測する式は、式(12)に基づいて、より一般的な公式にすることができます。各段に、線形利得(gn)、入力IP3 (iip3n、単位:ワット)、及び選択性(sn)が含まれます。これらは、帯域内にIM3生成出力を生じる2つのオフチャネルCWトーン周波数における値です。
ここで、Sn(dB) = 10.log10(sn)です。この式は、snを1に設定(すなわち選択性Snを0dBに設定)して単純化すると、M段のカスケードのインターセプトポイントを計算する従来の式になることがわかります[1]。

2次IMの生成出力による干渉

レシーバのスプリアス応答は、オンチャネルRF信号の周波数とは異なる周波数ですが、それでもなお、十分な高レベルで発生した場合には、レシーバ通過域に出力干渉源を生み出します。このようなスプリアス応答の周波数の1つに、ハーフIF周波数があります。このハーフIFスプリアス応答は、2次相互変調(IM2)生成出力となり、レシーバのRFフロントエンドで発生します。2次相互変調(IM2)生成出力のレベルは、レシーバのRFフロントエンドの2次インターセプトポイント(IP2)から予測することができます。この2次インターセプトポイント(IP2)は、レシーバチェーン内の第1ミキサまでの要素(第1ミキサも含む)によって決定されます(図2)。第1ミキサにおけるハイサイド挿入では(図4a)、LO周波数から-fIF/2だけずれたレシーバ入力のCWトーンが、(-2.fCW + 2.fLO)のIM生成出力によってIFにダウンコンバートされて、第1ミキサに発生します[1、2]。ローサイド挿入については、LO周波数から+fIF/2だけずれたCWトーンが、(2.fCW − 2.fLO)のIM生成出力によってIFにダウンコンバートされます。この入力IM2生成出力のレベル(IIM2、単位:dBm)は、直線の傾きが2:1であるということを用いて(図4b)、レシーバのRFフロントエンドの入力IP2 (IIP2、単位:dBm)とハーフIFのCWトーンの入力電力レベル(PI、単位:dBm)を含んだ式で求めることができます[1]。

図4:ハーフIFスプリアス応答によって生じる、帯域内干渉源となるIM2生成出力(図a)と2次インターセプトポイント(IP)の定義(図b)

このハーフIFスプリアス応答による帯域内IM2生成出力は、第1ミキサからの2次IMの寄与分を最小限に抑えることによって、低減することができます。これを実現するには、第1ミキサの前段にあるRFフィルタ(RFフィルタ#1と#2)で、このオフチャネル干渉源に対してある一定量のRF選択性(S)を導入します。フィルタの選択性(S)とは、オンチャネルのフィルタ通過域の挿入損失(IL)を基準とした、スプリアス応答周波数でのRFフィルタの除去帯域における減衰量です。RFフィルタの選択性(S)は、第1ミキサの2次歪みとダイナミックレンジの要件を低減します。このため、等価の帯域内IIM2生成出力を最小限に抑えるようレシーバ全体のRFフロントエンドIIP2を最適化することができ、必要なレシーバベースバンド(C/I)比を満たすことができます。

2次入力インターセプトポイント(IIP2)の改良カスケード方程式

図5では、デュアルコンバージョンレシーバのRFフロントエンドを3つのブロック、すなわちRFフィルタ#2、ブロック#1 (RFフィルタ#2の前段にあるすべての段から構成)、及びブロック#2 (RFフィルタ#2の後段で、第1ミキサを含む)に分割しています。ブロック#1には、RFでの利得G1と、等価の2次入力インターセプトポイントIIP21が含まれています。ブロック#2には、RFでの利得G2と、等価の2次入力インターセプトポイントIIP22が含まれています。レシーバ入力に見られる各ハーフIFのCWトーンの電力レベルはPIと仮定されています。P1は、ハーフIFのCWトーンのブロック#1への入力レベルです。P2は、ハーフIFのCWトーンのブロック#2への入力レベルです。IIM2は、ハーフIFのCWトーンによるIM2の総歪み電力で、レシーバへの入力になります。IIM21は、ブロック#1に生成されるIM2の総歪み電力で、ブロック#1への入力になります。IIM22は、ブロック#2に生成されるIM2の総歪み電力で、ブロック#2への入力になります。


図5:IP2改良カスケード方程式を導出するためのブロック図(この方程式は、ハーフIFスプリアス周波数において、レシーバのRFフロントエンド段へのRF選択性(S)を追加することにより、その効果を採り入れています。電力記号の単位はdBm、利得はdB単位)

以下に示す導出方法では、ブロック#1の入力IM2の歪み電圧と、前段の電圧利得で除算したブロック#2の入力IM2の歪み電圧とを、最悪条件として厳密に同相で加算することにより、IM2の総歪み電圧(これがレシーバへの入力となる)を求めています。システム特性インピーダンスを1Ωとすると、次のように表すことができます。

ここでは、IIM2電力を電圧に変換するために平方根をとっています。項iim2、iim21、及びiim22の単位は、線形電力単位(ワットまたはミリワット)です。また、G1(dB) = 10.log10(g1) and IL(dB) = 10.log10(il)です。

式(15)は、次式に置き換えることができます。
式(17)は、レシーバ全体の入力IP2を定義しています。式(17)をdBmではなく線形電力単位(ミリワット:mW)に書き換えると次のようになります。
式(17)の場合と同様に、ブロック#1とブロック#2のそれぞれについて、IIP21とIIP22を次のように定義することができます。

P1(dBm) = PI、及びP2(dBm) = PI + (G1 - IL - S)であるため、式(19)と(20)によって次式が得られます。

式(17)の場合と同様に、式(21)と式(22)をdBmではなく線形電力単位に書き換えると、それぞれ式(23)と式(24)が得られます。

ここで、S(dB) = 10.log10(s)、及びIL(dB) = 10.log10(il)です。S(dB)とIL(dB)は正の数であることに留意してください。

式(16)に戻って、これを(pI)1/2で割ります。

式(18)、(23)、及び(24)を用いて、式(25)の各項に、等価の項を代入します。項pIを取り除いて整理すると、次のIIP2の改良カスケード方程式を得ることができます。
式(12)から分かるように、高選択性RFフィルタ(s >> 1)を選ぶことにより、レシーバ全体のRFフロントエンド入力IP2 (IIP2)に対する第1ミキサブロックの入力IP2 (IIP22)の影響を最小限に抑えることができます。留意すべきことですが、カスケードシステム解析では、第1ミキサブロックの入力IP2 (IIP22)は、等価の入力IP2で置き換える必要があります。これによって、RFフィルタに選択性を導入する効果を反映できます。この等価IIP22は、次式で表すことができます。
M個のカスケード段を備えたレシーバのRFフロントエンドチェーンの全体入力IP2を予測する式は、式(26)に基づいて、より一般的な公式にすることができます。各段に、線形利得(gn)、入力IP2 (iip2n、単位:ワット)、及び選択性(sn)が含まれます。これらは、帯域内にIM2生成出力を生じるハーフIFのCWトーン周波数における値です。
ここで、Sn(dB) = 10.log10(sn)です。

参考資料

  1. S.Maas著「Microwave Mixers (マイクロ波ミキサ)」 Artech House, Norwood, MA 1993年
  2. P.Vizmuller著「RF Design Guide (RF設計ガイド)」 Artech House, Norwood, MA 1995年

この記事に類似した内容が「RF Design」の1997年12月号に掲載されています。


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